お役立ち情報
アカデミック・ハラスメント対応ガイド
あなたはターゲットであり、被害者ではない
Presented by コノラボ
もくじ
このガイドでは、アカハラの定義から具体的な対処法までを解説します。
第1章:アカデミック・ハラスメントとは何か?
アカデミック・ハラスメント(アカハラ)とは、大学や研究機関などの教育・研究の場で、権力関係を利用して行われる嫌がらせのことです。研究上は、繰り返し継続して行われ、精神的な苦痛を与える行為として捉えられ、調査では「6か月以上」といった期間の目安が用いられることがあります。
ただし、これは研究上の目安であって、相談できるかどうかの基準ではありません。期間が短くても、一度きりの行為であっても、ハラスメントは成立します。「まだ日が浅いから」と相談をためらう必要はありません。
アカハラと学問の自由の違い
健全な学術的議論や意見の相違は「学問の自由」として尊重されるべきものです。しかし、人格を否定するような言葉による虐待、公的な場での屈辱、意図的な孤立などは、学問の自由の名の下に正当化されるものではなく、明確なハラスメント行為です。
第2章:アカデミック・ハラスメントの具体例
アカハラは、指導教員から学生へ、あるいは研究室の責任者からポスドクへといった、権力差のある関係で起こりやすいのが特徴です。
虐待的な監督・指導
- 人格を否定する、馬鹿にする
- 他人の前で侮辱する
- 努力を正当に評価しない
- 自分の責任を押し付ける
研究活動の妨害
- 貢献を認めず成果を横取りする
- 不当に悪い推薦状を書く
- ビザやポジションの取消しをちらつかせる
- 研究資金を不当に扱う
第3章:なぜアカデミック・ハラスメントは起きるのか?
アカハラの背景には、個人の性格特性だけでなく、学術界特有の構造的な問題が深く関わっています。
- 社会的学習:「自分も昔はそう指導された」という経験から、虐待的な指導スタイルが再生産されてしまう。
- アイデンティティの脅威:指導教員が、優秀な学生やポスドクの存在を自身の地位を脅かすものと感じ、攻撃的になる。
- 自己調節の障害:過度な研究プレッシャーやストレスにより、感情のコントロールが効かなくなり、部下への暴言などにつながる。
- 絶大なパワー・ダイナミクス:学生やポスドクは、資金、推薦状、将来のキャリアなどを指導教員に依存しており、不当な扱いを受け入れてしまいやすい。
第4章:集団いじめ「モビング」とは
アカデミック・モビングとは、研究室や学科などの組織内で、一人の人間をターゲットにして行われる、集団的ないじめや嫌がらせのことです。
モビングの兆候
- 特定の人物に関する噂や嘘が広められる
- 意図的に情報共有から外されたり、会議に呼ばれなかったりする
- 発言や業績が無視されたり、過小評価されたりする
- 他のメンバーが、ターゲットと話すことを避けるようになる
ポイント:モビングは、一人の加害者によるいじめが放置されることで、周囲の人間が同調・加担し、組織全体へと問題が拡大していくという特徴があります。
第5章:自分を守るための行動
もしあなたがアカハラのターゲットになってしまったら、自分自身を守るために、冷静に、そして戦略的に行動することが重要です。
- 記録する:いつ、どこで、誰に、何を言われ、何をされたか、具体的な言動を日時と共に詳細に記録しましょう。メールなどの証拠は必ず保存してください。
- 相談する:まずは学内のハラスメント相談室やオンブズマンなど、信頼できる窓口へ。学内の窓口が機能していないと感じる場合は、学外にも相談を受け付けている窓口があります。複数の窓口に同時に相談して構いません。一人で抱え込まないことが大切です。
- 仲間を見つける:同じような経験をしている同僚がいれば、連携して声を上げることで、組織が問題を無視しにくくなります。
- 出口戦略を考える:状況が改善しない場合に備え、他の研究室や機関への移籍も視野に入れ、推薦状を頼める他の教員との関係を築いておきましょう。
学外で相談できる窓口
- NPO法人 アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)
大学・短大・高専・専門学校・研究所などを対象に、2001年から相談を受け付けています。起きていることを一緒に整理し、対処方法を考える窓口です。
- 法務局の人権相談(みんなの人権110番)
相談は無料で、秘密は守られます。公的な記録として残したい場合の選択肢です。
- 弁護士
退学・雇止め・学位不認定など、不利益な処分が具体化している場合。法テラス経由での相談もできます。
連絡先や受付方法、それぞれの使い分けは、「看護学校でのハラスメント、どこに相談できるか」にまとめています(看護分野を例にしていますが、他分野の方にも使える内容です)。
重要な心構え:あなたは「被害者」ではなく、不当な行為の「ターゲット」です。いじめに遭っているのは、決してあなたのせいではありません。
第6章:声を上げた後に起こること
勇気を出して声を上げても、残念ながらすぐに問題が解決するとは限りません。むしろ、報復的な行為を受ける可能性も覚悟しておく必要があります。
起こりうる報復の例
- いじめ行為のさらなるエスカレート
- 悪評を流されるなどの、評判への攻撃
- 論文の出版妨害や、研究費の剥奪
- 解雇や契約更新の拒否
- ビザの取り消し(留学生の場合)
ポイント:声を上げる際は、自分の身を守るための準備(記録、相談先の確保、出口戦略)を万全にしておくことが不可欠です。
第7章:組織としての解決策
アカデミック・ハラスメントは個人の問題ではなく、組織全体で取り組むべき課題です。安全な研究環境を構築するためには、以下のような対策が求められます。
- 明確な方針の策定:いかなるハラスメントも許さないという「ゼロ・トレランス方針」を明確に掲げる。
- 教育と研修:教職員と学生の双方に対し、ハラスメントの定義や影響、対処法に関する定期的な研修を実施する。
- 公正な調査機関の設置:学内の利害関係から独立した、公平で透明性の高い調査委員会を設置し、すべての申し立てを真摯に調査する。
- 加害者への厳正な処分:ハラスメント行為が認定された場合、地位や業績に関わらず、厳正な処分を下す。
- 出版社の役割:学術出版社も、著者のクレジットに関する不正など、研究不正につながるハラスメント行為に対して厳しい姿勢で臨む。
看護師等養成所では、厚生労働省の指導ガイドラインが令和5年の改正で相談体制と防止体制の整備を求めるようになりました →