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看護教員のためのハラスメント防止ガイド

気をつけなければいけないハラスメント行為

Presented by コノラボ

もくじ

このガイドでは、看護教育現場で起こりうるハラスメントについて、教員の皆様が知っておくべき知識と対策を解説します。

第1章:看護教員が抱える悩み

看護教員の皆様は、日々多くのプレッシャーの中で学生指導にあたられています。ハラスメント問題の背景には、教員自身の悩みやストレスも深く関わっています。

学生指導の難しさ: 同じミスを繰り返す、学習意欲が見えないなど、学生の成長が見えず焦りや苛立ちを感じる。
業務過多と余裕のなさ: 膨大な記録添削、実習、会議に追われ、プライベートも圧迫。丁寧な指導をする時間的・精神的余裕がない。
外部からの圧力: 病棟からのクレームや学校からの国家試験合格率へのプレッシャーが、「もっと厳しく指導しなければ」という考えにつながる。
指導法の知識不足: 自身が受けた厳しい指導しか知らず、建設的な指導法を学んだ経験がないため、怒る以外の選択肢が分からない。

第2章:注意すべきハラスメント表現

指導のつもりが、意図せず学生を深く傷つけ、ハラスメントと受け取られてしまう言葉があります。

能力・学力否定: 「看護師に向いていない」「馬鹿なの?」「こんなのも分からないなんて」
人格・家庭否定: 「人間失格」「あなたの親の教育が悪い」「発達障害じゃないの?」
脅し・排除: 「単位をあげない」「あなたが学費を払うだけ無駄」「邪魔、消えて」
職務を盾にした暴言: 「患者を殺す気?」「泣けば済むと思ってる?」

第3章:ハラスメントの10類型

学生からの声に基づくと、看護教育現場のハラスメントは主に10の類型に分類できます。

  1. 言語的ハラスメント (暴言・人格否定)
  2. 無視・コミュニケーション拒否・孤立化
  3. 過度な課題や実習記録の押し付け
  4. 不透明・不公平な成績評価や単位認定
  5. 感情的・私情的な対応 (ターゲット化)
  6. 身体的接触・暴力・セクシャルハラスメント
  7. 個人情報漏洩・プライバシー侵害
  8. 実習先での差別的扱い・過剰な上下関係
  9. システム的問題・相談窓口の不備
  10. 差別 (年齢・性別・バックグラウンドなど)

第4章:ハラスメント発生の理論的背景

ハラスメントは個人の資質だけでなく、組織文化や学習プロセスによっても助長されます。

社会的学習理論 (Bandura)

「自分も昔はそう指導された」という経験から、虐待的な指導スタイルが、悪気なく再生産されてしまう理論です。攻撃的な行動が成功体験として学習されると、負の連鎖が生まれます。

権力格差 (Power Distance)

教員と学生の間に大きな権力差がある組織では、上位者の不適切な言動が「指導」として正当化されやすく、ハラスメントが常態化する傾向があります。

第5章:ハラスメントが学生に与える影響

ハラスメントは、学生の心と体に深刻なダメージを与え、その影響は長期にわたることもあります。

精神的影響

  • うつ、適応障害、パニック障害
  • フラッシュバック、PTSD
  • 希死念慮、自傷行為
  • 自己肯定感の低下、不信感

身体的・学業への影響

  • 睡眠障害、食欲不振
  • 頭痛、めまい、吐き気
  • 留年、休学、退学
  • 学習意欲の喪失、看護職を諦める

特に看護学生は、一般の大学生と比較してうつや不安のリスクが高く、自殺念慮を経験する割合も高いことが報告されており、ハラスメントがその引き金となり得ます。

第6章:新しい視点「シビリティ」とは

ハラスメント防止には、「何が違反か」という法的線引きだけでなく、よりポジティブなアプローチが求められます。それがシビリティ (Civility) という考え方です。

シビリティとは、他者への敬意、礼節、思いやりに基づいた言動や態度のことです。ハラスメントが「してはいけないこと」のリストだとすれば、シビリティは「するべき望ましい関わり方」を示します。

看護教育におけるシビリティの例

  • 学生の質問に対し、誠意をもって個別に教える。
  • 学生の失敗を責めずに一緒に振り返り、次善策を考える。
  • 学生の小さな成長や改善点を捉えて具体的に褒める。
  • 教員から積極的に挨拶をし、相談しやすい関係を築く。

第7章:組織としての対策

ハラスメントは個人の問題ではなく、組織全体で取り組むべき課題です。安全な研究環境を構築するためには、以下のような対策が求められます。

  • 明確な方針の策定:いかなるハラスメントも許さないという「ゼロ・トレランス方針」を明確に掲げる。
  • 教育と研修:教職員と学生の双方に対し、ハラスメントの定義や影響、対処法に関する定期的な研修を実施する。
  • 公正な調査機関の設置:学内の利害関係から独立した、公平で透明性の高い調査委員会を設置し、すべての申し立てを真摯に調査する。
  • 加害者への厳正な処分:ハラスメント行為が認定された場合、地位や業績に関わらず、厳正な処分を下す。

第8章:新しい指導モデル「TEM」の考え方

私たちは、ハラスメントを防ぎ、建設的な指導を実現するための考え方として「TEM(複線径路等至性アプローチ)」の導入を提唱しています。

これは元々、研究で用いられる手法ですが、「指導の各分岐点での関わり方が、最終的にどのような結果(アウトカム)につながるか」をシミュレーションするために非常に有効です。

指導におけるTEMの活用

学生指導の中には、課題の遅延や体調不良など、様々な分岐点が存在します。そこで教員がどのような対応(良い対応/悪い対応)を選択するかによって、学生の未来は大きく変わります。TEMは、そのプロセスを可視化し、教員が自身の関わり方を客観的に振り返り、より良い結果につながる選択肢を意識するためのモデルです。

第9章:事例検討:良い対応と悪い対応

課題の提出が遅れがちな学生Aさんへの対応を例に、良い対応と悪い対応を比較してみましょう。

悪い対応 ❌ 良い対応 (TEMに基づく) ✅
提出遅延を一方的に厳しく糾弾する。「看護師に向いてない」「やる気がない」など、人格を否定する。 まず理由を丁寧に聞く。「何か困っていることはない?」と問いかけ、家庭の事情やアルバイトなど、学生が置かれた背景を理解しようと努める。
原因を聞かずに「言い訳するな」と制止し、レポートの受理を拒否する。フォローなしで放置する。 学生の状況を考慮し、再提出の期限や補講の計画を柔軟に設定する。学習計画のカウンセリングや、他の学生からのサポート(ピアサポート)を紹介する。
体調不良を訴えても「自己管理ができていない」「甘えだ」と断定し、無理に実習に参加させる。 体調を最優先させ、休養を促す。校内の相談窓口やカウンセラーを紹介し、心身両面からの支援を検討する。

結果の違い:悪い対応は学生を孤立させ、退学や適応障害につながるリスクを高めます。一方、良い対応は学生との信頼関係を築き、課題解決を通じて学生の成長を促し、修学の継続につながります。

最後に:組織的な対策のために

ハラスメント防止は、個々の教員の努力だけでなく、組織全体での体系的な取り組みが不可欠です。学生と教職員双方にとって安全な教育環境を構築するために、外部の専門知識を活用することも有効な手段です。

厚生労働省「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」は、令和5年の改正で第5-1-(13)に「ハラスメント」を明記し、相談体制の確保と防止体制の整備を求めるようになりました。 改正内容の解説はこちら →

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第三者機関 J-ARCとの連携

J-ARC(日本学術評価協議会)は、アカデミック・ハラスメントに関する専門機関です。学生の相談窓口としてだけでなく、学校の防止体制強化を支援する協働機関でもあります。

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アカデミック・ハラスメント全般については アカデミック・ハラスメント対応ガイド もご参照ください。