看護教育

自己点検・自己評価に「ハラスメント対応」をどう書くか

指針は平成15年、条文の改正は令和5年。20年の空白をどう埋めるか

公開日:2026年8月19日 執筆:小野 純也(博士・医学)

看護師等養成所には、自ら評価を行い、その結果を公表することが求められています。その拠り所とされているのが、平成15年(2003年)に取りまとめられた「自己評価指針」です。ところが、この指針には「ハラスメント」という言葉が一度も出てきません。一方、養成所の運営を規律する指導ガイドラインは、令和5年の改正でハラスメント相談体制と防止体制の整備を求めるようになりました。この20年の空白を、自己点検・自己評価の書類の上でどう埋めるか。本稿はその実務を整理します。

SUMMARY

結論:どこに、どう書くか

先に結論を述べます。自己点検・自己評価においてハラスメント対応を扱うなら、カテゴリーV「経営・管理過程」の中の二か所に、性質を分けて書くのが自然です。

  • 「組織の整備」に ─ 防止のための体制(方針、規程、研修、担当の明確化)
  • 「学生生活の支援」に ─ 相談を受ける体制(窓口、経路、周知)

そして最大の難所は、相談件数がゼロだった年度をどう記述するかです。ここを「問題なし」と書いてしまうと、かえって説明力を失います。理由は第6節で述べます。

THE REQUIREMENT

そもそも何が求められているのか

厚生労働省「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」第9-5は、次のように定めています。

養成所は、教育活動その他の養成所運営の状況について、自ら評価を行い、その結果を公表すること。評価については、「看護師等養成所の教育活動等に関する自己評価指針作成検討会」報告書(平成15年7月25日)等を参照すること。

ここで押さえておきたいのは、「自ら評価を行う」だけでなく「その結果を公表する」ところまでが求められている点です。学内文書として作って終わりではありません。

そして、評価にあたって参照すべきものとして名指しされているのが、平成15年の報告書です。

THE 2003 FRAMEWORK

指針は平成15年のものである

この報告書に収められた「自己点検・自己評価指針」は、養成所の活動を9つのカテゴリーに分けています。

CATEGORIES

Ⅰ 教育理念・教育目的 / Ⅱ 教育目標 / Ⅲ 教育課程経営 / Ⅳ 教授・学習・評価過程 / Ⅴ 経営・管理過程 / Ⅵ 入学 / Ⅶ 卒業・就業・進学 / Ⅷ 地域社会・国際保健 / Ⅸ 研究

各カテゴリーの下に下位項目が置かれ、それぞれに「評価の考え方」「点検の視点」、そして根拠となる「点検資料(データ)」が対応づけられています。点検資料は通し番号で91項目にのぼります。

「学生生活の支援」には何が書かれているか

ハラスメント相談に最も近いのは、カテゴリーⅤの「学生生活の支援」です。その第1項「学業継続への支援の整備」には、学業を断念せざるを得ない学生の背景として経済的理由、心身の健康上の理由、家族・家庭生活に関連する時間的制約が挙げられ、養成所が整えるべきものとして経済的支援の整備、カウンセラーの配置、健康相談を受ける整備が示されています。

妥当な内容です。ただし、この指針の全体を通じて「ハラスメント」という語は現れません。平成15年に取りまとめられた文書ですから、当然といえば当然です。

THE GAP

令和5年改正で生まれたずれ

一方、指導ガイドライン第5-1-(13)は、令和5年5月11日の改正(令和5年6月1日適用)で次のようになりました。

学生の生活やハラスメント等に対する相談、カウンセリング等を行う者が定められ、当該者が必要な支援を受けられる体制の確保等の工夫を講じることが望ましいこと。

加えて、看護師等養成所内のハラスメント防止に必要な体制を整備することが望ましいこと。

つまり、こういう状態になっています。

求められていること(令和5年〜) ハラスメントの相談体制と防止体制の整備

指導ガイドライン 第5-1-(13)

評価の枠組み(平成15年〜) ハラスメントの項目を持たない自己評価指針

「学生生活の支援」にカウンセラー配置・健康相談の記載はあるが、ハラスメントの記載はない

求められる体制は増えたのに、それを評価する枠組みは20年前のままという状態です。指針が古いこと自体を責めても仕方がありません。実務としては、既存のカテゴリーのどこに位置づけるかを、各養成所が自分で決める必要があります。

WHERE TO WRITE

どのカテゴリーに書くか

選択肢は主に三つあります。

案1Ⅴ 経営・管理過程 > 学生生活の支援

最も自然な位置です。既にカウンセラー配置と健康相談が挙げられており、学生からの相談を受ける体制という点で性質が揃います。相談体制はここに書くのが妥当です。

案2Ⅴ 経営・管理過程 > 組織の整備

改正後の条文が求める防止体制は、相談窓口の話ではなく組織の仕組みの話です。方針の表明、規程、研修、担当の明確化はこちらに書くほうが筋が通ります。

案3Ⅲ 教育課程経営(臨地実習に関する部分)

実習施設での事案は、学内の窓口だけでは把握しにくい領域です。実習施設との調整や事前の取り決めについて記述する余地があります。ただし単独で置くより、案1・案2の補足として扱うほうが整理しやすいでしょう。

推奨は「案1と案2の両方に、分けて書く」です。改正後の第5-1-(13)は、相談体制と防止体制という性質の異なる二つを求めています。一か所にまとめて書くと、後段の「防止体制」への対応が見えにくくなります。

THE HARD PART

「相談件数ゼロ」をどう書くか

ここが実務上いちばん悩ましいところです。窓口を設置したものの、その年度の相談件数がゼロだった。この事実をどう記述するか。

「問題なし」と書くのは危うい

件数ゼロには、少なくとも二つの解釈があります。

  • 本当に事案が発生していない
  • 事案はあるが、窓口が使われていない

自己点検・自己評価の書類は、外部に公表されるものです。ゼロという数字だけを示して「良好」と結論づけると、後者の可能性を検討した形跡がない文書になります。仮に後日、学内で事案が明らかになった場合、この記述はきわめて弱い立場に置かれます。

書くべきは「件数」ではなく「確かめる手立て」

自己点検・自己評価の本旨は、数字を並べることではなく、課題や改善点を抽出することにあります。相談件数は、そのための一つの資料に過ぎません。

したがって、記述の軸は「何件だったか」ではなく、窓口が機能しているかどうかを確認する手立てを持っているかに置くのが妥当です。具体的には、次のような要素が考えられます。

  • 周知をいつ、どの機会に、どの範囲へ行ったか
  • 学生が窓口の存在を認知しているかを確認する手立て(学生アンケート等)があるか
  • 相談経路が複数あるか(学内窓口のみか、学外の経路もあるか)
  • 相談担当者が学生の評価に関与する立場か否か

最後の点は、担当者個人の資質とは無関係に生じる構造的な論点です。相談窓口の担当者が成績や実習評価に関与する立場である場合、学生には「相談したことが評価に響くのではないか」という懸念が残ります。この構造を認識したうえで何を講じているかを書けるなら、それは十分に説明力のある記述になります。

「相談しない理由」を測るという発想

ここで参考になるのが、日本看護学校協議会が厚生労働省の令和5年度看護職員確保対策特別事業として取りまとめた『看護師等養成所におけるハラスメント対応事例収集事業 報告書』(令和6年3月)です。

この報告書は、養成所向けにハラスメント意識調査のアンケート案を付録として収録しています。設計に二つの特徴があります。

特徴1同じ設問を、学生と教職員の双方に実施する

「単位が不可となる」「他の学生がいる場で叱責される」といった具体的な事柄について、ハラスメントだと感じるかを5段階で尋ねます。同一の設問を教職員にも実施することで、両者の認識の差が可視化されます。教職員が「適切な指導」と考えている項目を学生が「ハラスメント」と受け取っているなら、そこが対策すべき箇所だという整理です。学年を尋ねる設問があるため、継続実施すれば経年の変化も追えます。

特徴2「相談しない理由」を直接尋ねる

ハラスメントに遭った場合に相談するかを問い、「相談しない」と答えた人には、その理由を選択させます。選択肢には、改善されないと思うから、評価などで不利益を被るから、教職員との関係を崩したくないから、といったものが並びます。報告書自体が、相談されないことには理由があるという前提に立っているわけです。

つまり、相談件数がゼロであることを「問題なし」と読むべきでないという考え方は、公的事業の報告書にも表れています。自己点検・自己評価において、件数の少なさを補う資料として意識調査を用いることは、十分に説明のつく対応です。

なお、この報告書は相談窓口についても記述しており、学内の窓口だけでは相談をためらう場合があること、被害を受けた当事者に限らず誰でも相談できると周知することが望ましいことに触れています。また、相談したことや調査に協力したことを理由に不利益を受けないと周知することの重要性も指摘しています。これらは、自己点検・自己評価に記述できる項目でもあります。

第三者評価について、指針が述べていること

なお、平成15年の指針は「第三者評価、結果の公表」という項目を設けており、そこでこう述べています。

第三者による評価は、現在、看護師等養成所を評価するための第三者評価機関が存在していないので、どのような第三者にどのような内容を依頼するかを、養成所自らが選択し行う必要がある。

大学における認証評価のような制度が、看護師等養成所には存在しません。第三者性をどう確保するかは、各養成所の裁量に委ねられているということです。この点は、ハラスメント対応体制を記述する際にも同じ構図で現れます。

EXAMPLE

記載例

あくまで骨格の例です。実際には自校の状況に即して書き換える必要があります。

Ⅴ-2 組織の整備(防止体制)

ハラスメント防止に関する方針を◯◯年度に定め、学則細則に位置づけた。教職員を対象とする研修を年◯回実施している。担当者を◯◯に定め、対応の手順を文書化した。

課題:研修は教職員向けのみであり、実習指導者を含む学外の関係者への周知が及んでいない。次年度は実習施設との事前打合せの機会に説明を行う。

Ⅴ-5 学生生活の支援(相談体制)

ハラスメントを含む相談を受ける窓口を設置し、担当者を定めている。新入生ガイダンスおよび実習開始前の◯月に周知を行った。当年度の相談件数は◯件である。

課題:相談件数は少数にとどまるが、これをもって事案が生じていないと判断することはできない。◯月に学生・教職員の双方へハラスメント意識調査を実施し、認識の差が大きい項目として◯◯が確認された。また「相談しない理由」として◯◯を挙げた回答が◯%であった。相談担当者が成績評価に関与する立場にあることから、評価に関与しない経路の確保を次年度の検討課題とする。

ポイントは、件数を書いたうえで、その解釈に慎重さを示していることです。課題を書くことは自己点検・自己評価の目的そのものであり、隠すことではありません。むしろ課題が一つも書かれていない書類のほうが、読み手には不自然に映ります。

CLOSING

おわりに

自己点検・自己評価は、書類を整えるための作業ではありません。指針自身が述べているように、資料を集めることが目的ではなく、そこから課題と改善点を抽出することが本旨です。

ハラスメント対応について言えば、「窓口がある」と書けることよりも、「窓口が機能しているかを確かめる手立てを持っている」と書けることのほうが、はるかに実質的です。指針が20年前のものであっても、この考え方自体は古びていません。

AUTHOR
小野 純也(Junya Ono)Ph.D.

博士(医学)。株式会社コノラボ 代表取締役。PLOS ONE Academic Editor。アカデミック・ハラスメントの撲滅を目指す非営利国際団体 Academic Parity Movement(APM)International Advisory Board Member。大学・養成所における研究倫理およびFD/SD研修の企画・登壇多数。

【利益相反の開示】本稿の執筆者は、看護専門学校向けの外部ハラスメント相談窓口サービスを提供しています。本稿は制度の解説を目的としたものであり、特定のサービスの導入を推奨するものではありません。

REFERENCES

参考資料

本稿は、指導ガイドライン第9-5および平成15年7月25日の報告書に基づいています。第5-1-(13)は令和5年5月11日改正(医政発0511第5号、令和5年6月1日適用)の条文です。その後の令和7年2月25日改正(医政発0225第7号、令和8年4月1日適用)では、同項は変更されていません。

記載例は骨格を示したものであり、そのまま使用できる文案ではありません。都道府県によっては独自の自己点検票の様式が示されている場合がありますので、所管都道府県の指導要綱および様式をご確認ください。

本稿は制度の解説であり、法的助言ではありません。個別の事案への対応については、専門家にご相談ください。

更新履歴

2026/08/19 公開

2026/08/19 日本看護学校協議会の報告書(令和6年3月)を踏まえ、第6節に意識調査に関する記述を追加